【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
一瞬煙草に伸びかかった手を止め、代わりに携帯を手に取った。
空いた片手でスピーカーのボリュームを下げ、携帯を開いて操作する。
着信は、2件。
表示される名前は、やはりあの人だった。
今回は、なんの用だ…?
ふぅ、とため息をついてあの人に電話をかけようとした時だった。
ピリリリリリ…
再び携帯が鳴り響く。
しかも、あの人だ。
なんていいタイミングだ。
しかし、俺からかけないとご機嫌を損ねそうだが、これ以上無視しても怒りはかうことになるだろう。
仕方なく、俺は電話に出た。
「…Yes?」
日本語よりも慣れ親しんだ英語で受け答えると、携帯の向こうのあの人も流暢な英語で話し始めた。
『(やあ、アキラ。昼食は食べたかい)』
「(…こちらは今、夜ですよ。)」
『(あぁ、そうだったね。)』
「(…。それで、今回はどうかされたのですか、叔父さん。)」
『(何、久しぶりに甥の声が聞きたくなっただけだよ。)』
あの人―――、俺の叔父は電話の向こうでくっくっ、と笑った。