【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐

♪ 哀しい悪意







もうそろそろ夏がやってくる。



日に日に日射しも強くなり、ジリジリと肌を焼く日が増えてきた。




クーラーなんて完備されてない教室は、当たり前のように窓が全開だ。





風でパタパタ動き回る、うっとうしいとも感じるカーテンの隙間から、あたしは遠くを眺めていた。





もうどのくらいそうやって悩んでいるのか、すでにわからない。




自然とため息が零れた。






あたしを悩ませているのは、先日沙夜ちゃんが教えてくれたことについてだ。





来週の木曜日、暁くんの二十歳の誕生日。





『いわってあげてクダサイ。』




沙夜ちゃんはそう言ってすぐ、日本を発った。




今思えば、それはまるで自分は祝えないと言っているようだった。




もうすぐ迎えが来ることを、沙夜ちゃん自身わかっていたのだ。




…来週の、木曜日。




ちらりとカレンダーを眺めて、再びため息が零れた。





もうあと少ししかない。




手作りは間に合わないから、必然的に買うことになる。




そこが問題だ。





何を買ったらいい?




男の人は、暁くんは何をもらったら喜ぶ?





…わからない。





暑さと悩みで脳がオーバヒートを起こしそうだ、とあたしは机に突っ伏した。




京ちゃんや優兄には、毎年手作りのお菓子をあげていた。




でも、せっかくの二十歳の誕生日なのだからもっといいものを贈りたい。





ああ、こんなことなら沙夜ちゃんに好みを聞いておくんだった…。








< 226 / 450 >

この作品をシェア

pagetop