【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐

♪ 止まらない涙は




誰かが入ってくる気配がしたのだけど、また京ちゃんだろうと思って顔は上げなかった。





そのまま無言であたしの前に屈んだのが、なんとなくわかる。




すると、ポンと頭に触れる大きくて優しい手。





「柚…。」





この、声は…。





ハッとして、そろりと顔を上げた。





…どうして。





真っ直ぐにあたしを見つめるその瞳は、想い焦がれた暁くんのものだった。




優しい赤茶の瞳は柔らかく澄んでいて、黒く塗りつぶされそうだったあたしの気持ちにも微かに光がさす。





「…久しぶり。元気?」




いつものように、ふわりと優しく微笑む。




暁くんがなんでここにいるのかは、バカなあたしでも容易く想像できた。




なのに、何故。




いつもと変わらない声のかけ方をするの。





「少し痩せたね。ちゃんと食べてる?」





…そう言えば、最後にご飯食べたのいつだったかな。



記憶にない。






「お腹すいてない?何か食べに行く?」






ダメだ、あたしまた…。




もう一度だけ会いたいと思ってしまったのすら、罪だったのに。




もう甘えないと決めたのに、彼を前にすればこんなにも簡単に決心が揺らいだ。




また暁くんの優しさにすがりたくなってしまう。




必死に理性を保って、首を横に振った。





「…柚、こっち見て。」





いつの間にか反らしてしまったいた視線を、ゆっくりと暁くんに合わせる。





暁くんはやっぱり微笑んではいたけれど、どこかひどく悲しそうだった。





どうしてそんな顔をするのかわからなかった。






「ねぇ、柚。」




けれどまた、すぐにいつもの優しい微笑に戻る。





「前にも言ったと思うけど、俺は柚が好きだよ。」





何を…っ





恥ずかしがる素振りも見せず、暁くんは爽やかな笑みをたたえて言った。




そんな中あたしだけが、ドキッと心臓を高鳴らせる。







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