【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
暁くんの気持ちが、まったくわからない。
いつもニコニコしてて優しくて、温かい人だと思っていた。
かと思えば、時折暗い陰の部分を見せてくれたり。
けれどまた何事もなかったかのようにニコニコ。
そうしたら次は手のひらを返したように態度を変えて、今までのことは全部嘘だから忘れてくれって言う。
いなくなって、あたしに何を残すっていうの?
聞かないで消してしまおうかとさえ思った。
…だけどこれは、暁くんが最後にあたしにくれたもの、残してくれたもの。
それを簡単に捨ててしまえるほど、あたしは暁くんのことを嫌いになれていなかった。
それにもう、なにを言われてもこれ以上傷付きようがないから。
覚悟を決めたあたしは、そっと携帯を耳に押し当てた。
『…柚。』
それは確かに暁くんの声で、思わず息が詰まった。
そして次の言葉に、覚悟を決めていたあたしは虚を衝かれた。
『いつだって、笑っていてくれ。君の幸せを祈っているよ』
…メッセージは、たったこれだけだった。
淡白で、簡潔で。
結局何がしたいのか余計にわからなくなった。
それなのに、そのはずなのに。
あたしの頬には、一筋の涙が伝っていた。
…何それ、ずるいよ暁くん。
暁くんなんて、嫌い。
もう大っ嫌い!!
ブワッと涙が一気に溢れだし、次々と頬を伝い顎を伝い、ポタポタと地面に吸い込まれてゆく。
ぎゅっと唇を噛み締めても、震えて嗚咽が漏れ。
でも泣いてやるもんかと、唇をぎゅっと噛む。
もう、暁くんの為に泣きたくない。