狂犬病予防業務日誌
(冷蔵庫の扉を開けたらどうなる?)
“毒をもって毒を制す”ということもある。冷蔵庫に触れたら免疫ができて記憶の呪縛から解き放たれるかもしれない。
気づけば右手が伸び、取っ手を掴んで扉を開けようとしていた。同時に過去の忌まわしい記憶の扉を完全に開けてしまい、蘇った鮮明な映像に押し潰されやしないかと逆の発想も働く。
結局は躊躇してしまった。
「畳の部屋に土足で上がっていいのか?そんなところに犬は入っていないだろう?」
突然背後から老人に声をかけられびっくりした。
「いや、ここに……」
冷蔵庫の赤い斑点を見せようとすると、扉は真っ白。てんとう虫でもとまっていたのだろうかと考えたが、いまは冬だ。さっき見たものは幻覚で片付けるしかない。
「あんた臨時職員だよな」
「ええ」
「机の上に臨時……狂犬病……なんとかいうプレートがあったんだが、あれがあんたの正式な職指名か?」
「そうですが……」
「2つ質問していいかな?」
「えっ?」
おれは不快な顔をしてわざと聞こえない振りをしたが、無下に断るわけにもいかない。
「ええ~と臨時……」
「臨時狂犬病予防技術員です」
「そうそう、どうしてそんなに長い職指名なんだ?」
「狂犬病が恐ろしい病気だということを保健所はアピールしたいんじゃないですか……それと……」
思わず本音が出そうになった。抑留した犬と猫の尿や糞の始末や遺体の処理をさせるために公務員以外で地元の人に大層な職指名をつけ、汚くて面倒な仕事を押し付けるために日給で雇っている……それが真意じゃないだろうか。
“毒をもって毒を制す”ということもある。冷蔵庫に触れたら免疫ができて記憶の呪縛から解き放たれるかもしれない。
気づけば右手が伸び、取っ手を掴んで扉を開けようとしていた。同時に過去の忌まわしい記憶の扉を完全に開けてしまい、蘇った鮮明な映像に押し潰されやしないかと逆の発想も働く。
結局は躊躇してしまった。
「畳の部屋に土足で上がっていいのか?そんなところに犬は入っていないだろう?」
突然背後から老人に声をかけられびっくりした。
「いや、ここに……」
冷蔵庫の赤い斑点を見せようとすると、扉は真っ白。てんとう虫でもとまっていたのだろうかと考えたが、いまは冬だ。さっき見たものは幻覚で片付けるしかない。
「あんた臨時職員だよな」
「ええ」
「机の上に臨時……狂犬病……なんとかいうプレートがあったんだが、あれがあんたの正式な職指名か?」
「そうですが……」
「2つ質問していいかな?」
「えっ?」
おれは不快な顔をしてわざと聞こえない振りをしたが、無下に断るわけにもいかない。
「ええ~と臨時……」
「臨時狂犬病予防技術員です」
「そうそう、どうしてそんなに長い職指名なんだ?」
「狂犬病が恐ろしい病気だということを保健所はアピールしたいんじゃないですか……それと……」
思わず本音が出そうになった。抑留した犬と猫の尿や糞の始末や遺体の処理をさせるために公務員以外で地元の人に大層な職指名をつけ、汚くて面倒な仕事を押し付けるために日給で雇っている……それが真意じゃないだろうか。