孤高の天使
「おや、君はいたんですか」
アザエルがフェンリルを見つけてそう言うと…
グルル…とフェンリルが唸るのと同時にブワッと部屋中に風が巻き起こり、フェンリルが元の姿に戻った。
漆黒の毛並みを逆立て、低い唸り声を上げて、この部屋に在らざる者を警戒する。
威嚇するように見せた白い歯は今にもとびかかって行きそうで…
「フェンリル、大丈夫よ。もう帰られるわ」
低い姿勢で構えるフェンリルをなだめる様に撫でる。
「行きましょう?」
クイッと長い毛並みを引っ張りそう言えば、こちらを向くフェンリル。
紅の瞳で私をじっと見て、やっと体を降ろしてくれる。
これは、私を背に乗せるときの合図。
フェンリルは目の前の悪魔を威嚇することよりも、私を優先させてくれたのだ。
「ありがとう」
思わず微笑み、フェンリルの背に乗ろうとした時だった。
「イヴ様お忘れものですよ?」
何を……と思ったのもつかの間。
アザエルが手にしていたものに驚く。
金色の装飾が施されたそれは、紛れもなく聖剣。
鞘に収められた聖剣はただの剣と変わりないが、私の心臓は煩いくらいに鳴り響いていた。
「ありがとうございます…」
ドクン…ドクン…と大きく鼓動を打つ心音を聞きながら聖剣を受け取る。