孤高の天使


右手を灯りの方にかざすと部屋の灯りがパッとともり、明るくなる室内。

そして、ルシファーはイヴの顔を混乱と驚嘆が入り混じったような表情で見つめ、何かを言いたげに口を開きかけた。しかしそれを苦悶の表情で飲み込み、代わりに出た言葉は至極形式的なものだった。



「どこから来た」

尋問が始まるのかと思ったイヴはごくりと喉を鳴らし、緊張の面持ちでゆっくり口を開いた。


「天界です」

「どうやってここに来た」

「その子の背に乗って」

「お前は天使だな?」

「はい」

「……名は何という」

それまで矢継ぎ早に飛んできた言葉が一旦止み、ルシファーは固く結んでいた躊躇いがちに口を開く。



「イヴです」

イヴの返答に僅かに目を細めるルシファー。



「では……俺の名は分かるか?」

その声色があまりにも弱々しく、いつの間にか恐怖や不安はすっぽりと抜け落ち近づく指先を怖いとは思わなくなっていた。ルシファーの震える指先はイヴの頬へ触れ、何かを確かめるようになぞる指先にイヴは混乱した。




「魔界の王、ルシファー…でしょう?」

「そう…か……そうだよな…」


ルシファーは自嘲気味に笑いながらイヴに触れていた手を引き顔を覆った。表情は笑って見せたが、苦しげに零れた言葉とともに吐き出された想いは聞く者を切なくさせるほど掠れていた。





「泣いて…いるんですか?」

その時、何故かそう思った。そっと問いかけるように声をかければ、ルシファーは俯いていた顔を上げる。その頬には涙は流れていなかった。しかし。



「泣いていないよ」

その笑みがあまりに綺麗で、完璧すぎて。お手本のような綺麗な笑みは作り物のようでイヴは困惑した。自分の想いを殺して笑顔を張り付けるルシファーがあまりにも切なく映ったからか、イヴは無意識にルシファーの手を取った。




「ッ!?」

「手が震えてる」

小さく震えるルシファーの手を両手で包み込む。ルシファーの手が一瞬強張ったが、拒絶はなかった。イヴは振り払われなかったことに安堵し、真剣な面持ちで顔を上げる。


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