孤高の天使
「そんなに心配ならフェンリルをつけよう。フェンリル、イヴについて行ってあげなさい」
その声に部屋の端で横たわっていたフェンリルがのっそりと動く。前足を伸ばして背伸びをしたかと思えば、見る見るうちに身体が小さくなっていく。最終的には膝くらいの高さに縮んだフェンリルは首をフルフルと振り小さな足取りでイヴの足元へやってきた。
さっきまでのフェンリルは怖かったのに、このサイズだと鋭かった紅い瞳も可愛くさえ見える。イヴはフェンリルの可愛らしさにつられ、ラファエルの黒衣を掴んでいた手を離し、恐る恐る腰を下ろした。すると、フェンリルは甘えた声で鳴き、イヴの指先に鼻を寄せた。
「ほう、珍しいこともあるものだ。フェンリルから寄ってくるとはな」
心底驚いている様子のラファエル。ルーカスは一度目の当たりにしているため、またかといわんばかりに呆れた視線で見た。
「何かあればフェンリルが守ってくれる。フェンリルはそこら辺の悪魔よりも強力な魔力を持つ魔獣だから安心していい」
もちろんルーカスよりもな…と言うとすかさず「ルシファー様ッ!」とルーカスから非難が飛んだ。しかし、図星だったのかルーカスはチッと顔を赤くしながら可愛い悪態をつく。
「ほら、分かっただろ?お前に手出しは出来ないんだ」
口を曲げて面白くなさそうにそう言うルーカス。その姿が何故か面白くて、こんな状況なのに心の中でクスッと笑った。
思っているよりも怖くないのかもしれない。そんな思いが後押しとなり、フェンリルに付き添われてしかめっ面のルーカスと部屋を出た。