孤高の天使
「まぁ素敵!」
「本当ね、イヴ様に似合いそうだわ」
結局どのドレスでも良かったらしい。取り敢えずほっと一息ついたのもつかの間。
「ネックレスはどれになさいます?」
その言葉にイヴが嫌な予感がしたのはいうまでもない。結局ネックレス、イヤリング、靴などを選ぶのに時間を要し、部屋を出たのは随分経ってからだった。
「お、お待たせしました…」
「おせーよッ!」
やっとのことで部屋から出ると、案の定ご立腹のルーカス。壁に預けていた体を起こし、組んでいた腕を解きながらこちらを向く。
「いつまで待たせれば…気が……」
目が合った瞬間、ルーカスが目を見開き押し黙る。上から下までなぞられる視線にイヴはいたたまれない気持ちになり堪らず口を開いた。
「あの……やっぱり似合いませんか?」
「いや……」
ルーカスは急に視線を逸らして言葉を濁す。
「………?」
ルーカスらしくないその態度にイヴは首を傾げた。無言でルーカスを見つめていると、ルーカスの方が先に視線を外した。
「なんでもねーよ。さっさと行くぞ!」
「変なルーカス。ねぇ、フェンリル」
廊下にちょこんと座っていたフェンリルに声をかければ、クーンと返事のようなものが返ってきた。
「イヴ、さっさと来い!」
「はいッ」
名を呼ばれたことにびっくりしながらも、ルーカスの後を駆け足で追った。ルーカスとイヴが立っているのは魔王ルシファーの部屋の前。
イヴは侍女の部屋からここまでの道を覚えていなかった。それほどに魔王城は複雑な構造をしていた。ここへ来るまでに何度曲がったことか。こうして城から逃げ出すという密かな策は淡くも消え去った。
「ルシファー様、イヴを連れてきました」
ルーカスが部屋の中に呼びかけるが、反応がない。