孤高の天使



家を出て向かったのは天界の中心地である神の神殿だった。

天界は上位・中位・下位天使の居住区分かれており、天使は自身の位に見合った居住区に住んでいる。

中でも神の居所は神聖化されており、下位天使はおろか上位天使の一部を除き、立ち入りを禁じられている。

しかし、全ての天使が神殿へ入ることが許される時間がある。それが毎朝行われる天使たちの神への礼拝だ。

礼拝は神聖なる神の神殿に入る事を許される唯一の時間であり、神への祈りは全ての天使の義務とされているため、神殿への道は毎日混みあっている。

そんな中、聖獣の背に乗って飛ぶ光景はとても目立つ。



神殿へと向かう天使たちからの容赦ない視線が突き刺さるのが分かったが、好奇な目で見られるだけならまだましだ。

ゆうに数十メートルの幅はあろうかという大きな階段が見えた頃、ラバルはゆっくりと降下し、階段の前で止まった。




「行ってくるね、ラバル」

気乗りがしないのが分かったのか、ラバルは心配そうに鼻先をすり寄せた。

白い大理石の上に深紅の絨毯が敷かれた階段の上は神殿へと繋がっており、ここから先は天使だけの聖域だ。

例え聖獣といえど一歩たりとも踏み入る事は出来ない。




ラバルに背を向け、周りの視線を受けながら聖域へ足を踏み入れる。

すると、階段の先、遥か上の神殿から一陣の風が吹き、金色の髪がふわりと風に揺れた。

そしてその瞬間、耳に入ってくるどよめき声。皆の視線は背中に現れた純白の羽に集まった。



「イヴだわ…見て」

「本当だ。噂は本当だったのね」

声を潜めるつもりがあるのかないのか。耳に届いた内容にイヴはうんざりした。

そして騒がれる元凶のそれを振り返る。視線の先には左右二枚の四枚羽があった。


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