しゃぼん玉。

悪夢の〝トキ〟。

「ほら、食え。」

そう言って投げられた食事は生きている魚。
人魚に魚を食えとでも言うのか?
そんなの、無理に決まってる。
ご主人に人間を食べろと言っているのと同じことだ。

ご主人はあの日から態度が変わった。
1日に1回あった食事は私に食べさせる気がないのか、生きている魚に変わり、2日に1回の食事になった。

「あなたも捕まってしまったの?」

魚が逃げないようにと檻の棒の間隔は狭くなったが、檻は少し深いところへ置かれ、今では座っていても腰の位置まで水がある。
その狭い檻の中へ投げ込まれた魚は、食べられまいと逃げ回っていた。

「大丈夫。
心配しないで?
私はあなたを食べないわ。」

ご主人は食事を投げるとすぐに居なくなるから、私と魚との話を知らない。

「私があなたを逃がすわ。
怯えないで?」

この話をするのは何度目だろう。
魚が放り込まれる度に、私は魚に言う。
魚も理解してくれたのか、大人しくなって傍に来てくれた。

「良い子ね。
ねぇ、これから話すことをよく聞いてね。」

そう言って私は、この檻から魚が唯一逃げられる手段を教えた。

「もう少ししたらご主人が私を殴りに来るわ。
その時にあなたが入ってきた扉があるでしょう?
あそこの扉が開いた隙を狙って逃げて。
あなたが見つからないように私が隠すから大丈夫。」

隠す必要は多分ない。
ご主人は私を殴ることしか頭にないから、周りが目に入っていないのだ。
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