しゃぼん玉。
泳いだ。
なるべく城から離れられるように。
遠くに行けるように。

必死になって泳いだ。
しんどかった。
苦しかった。
私を見てほしかった。

私を見てくれるようにって、母様譲りのストレートを一生懸命くるくるにした。
父様は気付いてくれてた?
私ね、魔女と取引したの。

「私、最初はもっと言葉遣い良かった。」

だけどね、魔女が中途半端に優しくしちゃうから、ほとんど戻っちゃったの。
取引したのはね、私の〝言葉遣い〟と〝瞳の色〟。
父様が昔、母様の瞳が好きだったのを誰かから聞いた。
だから私は母様と同じ瞳の色を変えてもらった。

「誰か見てよ。
私だけ見て。」

母様は声を無くして、想いを伝えられず死んだ。
なら、私は声だけは売らない。

もうどれだけ泳いだか分からない。
遥か彼方に見えていた海面は、今目の前にある。
海底より太陽に近いけれど、暗かった。
だから夜だと思った。

なんとなく星を見たくて、近くに岩場があったからそこに座ることにした。

「星なんてない…。」

珍しく星が見えない空だった。

「見えないか……。」

だって私の視界は歪んでるから。
涙で……、空が滲んでる。

「何処にいればいい…?」

誰に聞いたか分からない問いは、行き場所もなく彷徨っていた。
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