桜姫紀
痛みが来ない。
死んだからかな。
そっと目を開けた。

そこには、いつもと変わらない殺風景な風景。
だけど、自分に向けたはずの小刀は侍女の
霞の手によって止められていた。

「馬鹿なことはやめなさい。」

霞は私が唯一友と呼べる存在だった。
侍女と姫。
本来は仕える、命令するという相反の立場立場だが、
二人は違った。同等の立場だ。

「止めないでよ・・・・。」

「嫌。」

簡単に一蹴されられた。

「霞・・・私、人質になるんだよ?」

「・・・知ってる。」

何で知ってて止めるの・・・?

「ねぇ桜。死ぬことだけが逃げ道なんじゃない。
ここから逃げ出すことだって立派な逃げ道よ?」

「不可能よ。」

城の周りにはたくさんの兵士。
逃げ出そうとしても簡単に捕まってしまう。

「・・・・・・。」

「綺麗事はやめて、霞。変に・・・希望を持たせないで。」

だって私の運命は見えているもの。

「桜。」

ギュッと私に霞は抱きついた。
残酷だね。
人ってここまであたたかいんだ・・・。

「お願い。一つだけ・・・約束して。
お願いだから・・・勝手に死ぬことなんてしないで・・・!!」

そういう霞の頬には涙がつたっていて。
ごめんね。悲しませたかったわけじゃないの。
泣いている貴方を見るとぎゅぅっと胸が押しつぶされそう。
霞もこんな気持ちだったんだね。
ごめんね・・・。ごめんね・・・。
死なない約束はできないけど貴方を悲しませることだけはしたくないよ。
だから・・・泣かないで?霞・・・・・。


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