もう1度~私と先生と桜の木~

受けたくない頼みごと





「なんか…やる気出ねー」


前の席で類がそう言いながら下敷きで煽っている。



「そうだね。

部活のしすぎだったんだよ」


「だなー

引退したはずなのに全然実感湧かないからなあ」


この間の試合で私たち3年は引退を迎えた。

これからは大学受験の勉強に追われる毎日となる。


「勉強…したくない…」

窓から生ぬるい風がはいってくる。

季節はほとんど夏。

そろそろ冷房が恋しい時期。


汗が流れるとともにやる気も流れてしまう。

…そんな季節。



「こーら!奏ちゃん!

そんなこと言っちゃダメでしょー?」


「…え!?いつの間に入って来たの!?」


へへ~と笑っている琴音が後ろにいて。

気配を消すとは高等技術を使うなあ、なんて頭の隅で考える。



「あのね、奏」


「どうしたの?」


「ちょっとした…頼み事があるの」


そう言った琴音は上目づかいで私を見ていて。

これが俗に言う『おねだり顔』というヤツだろう。


私には到底できない、

これまた高等技術だ。






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