裏生徒会部
皆が出て行くと、凌久はピアノの近くに椅子を持ってきた。
そして座る。
「柊也、もう一回弾いてくれ」
「別にいいけど」
1人で歌の練習をするのかと思ったが、歌いもせず、何も言わずに聴いているだけだった。
引き終わると、一言。
「つまらん」
「は?」
弾けって言ったのは誰だ。おい。
凌久は立ち上がり「どけ」と言うとピアノの前に座る。
そして慣れない手つきでメロディだけを弾いた。
途中途中、間違えたりしたし、メロディだけだから特に凄いことはない。
でも、引き込まれた。
凌久の奏でる一つ一つの音が響く。
「俺が言いたいことはわかったか?」
「まぁ…大体」
多分、前に神埼に言われたことだと思う。
気持ちが込もっていない、てな。
「確かに気持ちだけあっても技術がなくちゃ意味はない。けどな、技術だけがあっても気持ちがなかったらそれも意味ないと思うんだ、俺は」
「だから気持ちを込めて弾け、って言いたいのか」
「おう。わかってんなら話は早いな」
気持ち……昔の俺なら当たり前のことだった。
ただただ、皆を喜ばせて笑顔を見たかったから。
その中でも一番喜ばせたかった相手は……もういない。
だから気持ちを込めるなんていうのは…
「静音」
「は…?」
「柊也の凄いとこ見せつけてやって惚れさせちまえ!な?」
凌久はにっと笑う。
静音…か。
あいつは興味があるのかすらわからない。
でも、今、気持ちを込めるなら…静音しかいないかもな。
「ピアノ弾いてるときの柊也なんてなんか意外性あっていいんじゃね?」
「意外性?」
「柊也、ピアノなんて弾けなさそうなくせして完璧に弾けんだもんな。正直驚いた、俺」
「見た目で決めるなよ」
いやまぁ…確かに他人から見れば弾いてなさ気だな。
「そうと決まればライブんとき、特等席を俺が用意しといてやる。だから柊也は静音をそこに座らせるように約束か何かしとけ!」
「あぁ…わかった」
「凌久様が協力してんだ!見惚れんの1兆万%だ!」
「なんだよ1兆万%って…」
無駄に高すぎ。