恋する乙女
夢紫苑
夢紫苑…花崎 恋

今日は一冊も借りてこなかった。
私立桜大学付属高校に通う私は、学校私有の図書館に毎日足を運んでいる。
もちろん本が好きだからと言う理由もあるけれど、図書館から見える景色が私は好きだった。


時刻は午後10時丁度。明日はテストだ。 勉強する気は全く無いが、恰好だけでもと参考書を開く。
紫苑の花が綺麗に押し花されていた。
きっと学校の庭に咲いていたものだろう。私はそれを透明のケースに挟んで栞をつくった。
あの人にまた逢いたい。制服は着ていなかったから大学の生徒だろう。

高校生活も2年目になる。今だに恋もできず、周りの友達の会話に合わせながらなんとか楽しめているが、何かこの生活に変化が欲しかった。平凡な毎日を退屈だとは思わないけれど、 今日の『紫苑の花の人』と出逢ったことは、小さくも変化のある出来事だった。
ぼーっと花を見つめていたら1時間が経過していた。
午後11時3分。
栞を別の本に挟み、参考書を閉じて机の上の写真に目をやる。3人の男女が笑っている。私と姉ともう1人…。もう4年もたつのか。
『おやすみ』
写真に向かって呟くと、私は部屋の明かりを消してベッドに横になった。
明日に今日のような少しの変化を期待して目を閉じる。
同時にひと粒の涙が頬を伝っていくのがわかった。
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目が覚める。
時刻は午前6時。
机の上の参考書をみて思い出す。
…テストなんかどうにでもなれ。
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夢紫苑 1<終>
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