一番星のキミに恋するほどに切なくて。《旧版》


「………夢月の体調がおかしい。日が経つごとにさらに悪くなってる…あれはただの風邪か?」


外に出た二人の男女が、夜風にあたりながら向かい合っている。


はたから見たら恋人がイチャついているようにしか見えないだろう。


でも、今この二人の間に流れるのはピリピリとした緊張感だけだ。



「…………あなたにそれを教える事は出来ないわ」

「……………なんだと?」

「言葉通りよ。あたしは医者なの、患者の情報を他人に口外する事はできないのよ」


頑なに口を閉じる博美に俺は苛立ちを隠せない。


―グイッ


俺は博美に容赦なく掴み掛かる。


「…っ…乱暴ね…。でも、あたしが教えられる事は何も無いわよ」

「…………っ…くそっ…」

荒々しく手を離すと、博美は乱れた服を整えた。


「………大事なのね…夢月ちゃんの事」


「…………何が言いたい…」

「…一つだけ忠告してあげる。これは、医者としてじゃない…あなたの姉として言うわ」


博美はいつものような余裕の笑みを消した。


「夢月ちゃんの傍にいたいなら…覚悟を決めなさい。生半可な気持ちで…あの子に近づけば、近いうちにお互いに後悔する事になるわ」


博美の言葉の意味がわからない。覚悟……?何の覚悟だよ……。


「……どういう意味だ…」

「…あたしが言えるのはそこまでよ。あとはあなた次第よ…蓮。答えが出たら、また助言くらいしてあげるわ」



そう言って手をヒラヒラと振り、中へと戻っていった。


ただ風が吹く空間に、俺一人が残される。


博美に言われた言葉が、頭の中をグルグルと回っていた。


「……夢月……」


その掠れたような小さな呟きは、誰に聞かれる事なく風にさらわれた。






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