君を忘れない
ようやく四限が終わり、今日の授業が全て終わった。

思わず背伸びをして教室を出て、駅へと向かおうとする。


「よっ」


後ろから声を掛けられたので振り返ると、そこにはサークルの先輩であるトラさんが嬉しそうに立っていた。

この人はいつ見ても笑顔でいる気がする。


「あっ、トラさん。

相変わらず嬉しそうにしていますね、その性格が羨ましいです」


「相変わらずとか色々と余計だろ。

授業がようやく終わったんだ、これ以上に嬉しいことはないだろう」


この人は似たような表現を使うため、結局は何が一番本人にとって嬉しいことか分からない。

でも、本当に嬉しそうな顔だ。


「今日、サークル行く?」


正直、返答に困る質問を笑顔のまましてきた。

もっとも、この人はサークルを純粋に楽しんでいるからこちらにとっては困る質問でも、本人はまったくそんな思いではないのだろう。


「行きませんよ」


「えええ」


こちらが言い切ったのとほぼ同時に残念そうな顔をした。


「必要以上に驚き過ぎですよ。

そんなこと言ったって、バドミントンの用意なんて何も持ってきてないですから」


そう言うと、残念そうな顔は再び嬉しそうな笑顔へとなった。
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