君を忘れない
(しまった)


咄嗟にそう思ったが、トラさんの表情はもう遅いということを物語っているようだ。

そう、この人は生田に住んでいるため、学校からは歩いて15分くらいしか時間がかからない。



つまり・・・


「あれば行くんでしょ。

じゃ、ユニフォームとラケット貸すから行こうぜ。

あっ、シューズはサイズ合わないから誰かに借りないとな」


この人のなかじゃ、もう私がサークルに行くということになっているようだ。

少々強引なところもあるが、裏表がなくはっきりしているし、付き合っていた頃の私や彼とも何一つ変わらずに接してくれていた。

他の先輩たちと違って、不思議とこの人と一緒にいるとすごく居心地がいい。


「よし、行こうぜ」


そう言うと、生田側の道に足を進め始めた。

ため息をしながらも、この人となら構わないかと思い、私も同じ方向へと向かった。
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