神龍の宴 覚醒の春
新たなスタート。
凛はその日、始業式が終わっても真っ直ぐうちに帰る気がしなかった。


きっと爽も同じ気持ちだろうと思う。


「あー、胃が痛い」


一人呟く。

爽の事も気になるが、新しく来る同居人のことも気になる。

今日新しく来る少女の名は、高原遥都(はると)という名前らしい。

前々から名前だけ聞いていて、凛は勝手に男だと思い込んでいた。



「女の子だったなんてなぁ」



ため息混じりに呟いた時、胸ポケットの中で携帯が震えた。


着信を見ると、それは長兄の暦だった。


凛は暦に呼び出され、駅前のカフェに向かった。


入口から店内を覗くと、一番奥の席に、暦と、末の弟の勢がいた。



「あれっ、勢も?」


「凛兄、久しぶり」


屈託ない笑顔に懐かしさが込み上げる。

その幼い顔立ちはちょっと見、少女のようにも見える。


勢は母親似なのだ。


その隣に暦がいた。



暦は肉親の欲目を抜いて見ても、誰もが振り返るくらいの美丈夫だ。


父親の若い頃にそっくりらしいが、暦の方がより綺麗な顔立ちをしていると凛は思う。



その証拠に、店内の女性客のほとんどが、先程から暦を盗み見てざわついているのがよくわかった。



「爽と同じ部屋になったんだって?高原さんの娘も今日から一緒なんだってな」


暦に切り出されて、凛はおおげさにため息をついた。



そんな凛を見て、暦は苦笑混じりに呟く。




「そんなことしなくても俺のいた部屋を使えばよかったのに」




桐生家は平屋の8LDKである。


今誰も使っていない部屋は、暦の部屋と父親の書斎、そしてホテルのスイート並の設備を持つゲストルームが二つ。




無駄に広いゲストルームは普段使いには向かず、かといって凛は暦の部屋を潰したくなかったので、間取りを一番広く取ってあった爽の部屋に移動したのだが。



「暦の部屋はそのままにしておきたいんだ。いつでも帰ってこれるように」


「気持ちはありがたいけど、勘当された身としてはもう戻るつもりはないよ」







< 24 / 38 >

この作品をシェア

pagetop