春は来ないと、彼が言った。


「…………お腹空いた」



空腹ってことは、昨日は帰って早々寝ちゃったんだなぁ…といやに冷静な分析をする。


さすがにどうやって家まで着いたのかわからないほど、意識が低迷していたわけじゃない。

でも昨日の記憶は曖昧で、未だにぼんやりと霞んでいる。


半開きのクローゼットからずるりとパジャマを引き抜き、胸に抱えた。



「……とりあえずシャワー入ろ…」



ふわふわとした足取りでベッドから降り、自分しかいない部屋を後にした。






パタンと閉まった扉が、いつかの景色と重なった。

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