春は来ないと、彼が言った。
そんなわたしの思考を見透かすように、嬉しそうに弾んだ恢の声が耳に届いた。
バッと顔を上げると、優しい瞳がわたしを見ている。
無意識に、どきんと心臓が高鳴った。
そんな顔で見ないでよ、びっくりした…。
こっそり深呼吸をしてから、わたしはおもむろに口を開いた。
「この大樹って……最後の春に一緒に来た…あの樹だよね…?」
前回の春。
つまり、5ヶ月近く前。
この町で一番大きな桜の樹を見に行こうと、恢と2人で約束した。