Cold Phantom [後編]
マリアさんは私の前の扉を見ると「あっ…」と声をあげ、ポケットからキーを取り出して言った。

「工事はこの部屋から始める事になってね、昼頃業者の人が来たんだよ。でも閉め忘れてたみたいだね。」

言いながらドアを施錠する。

「祥子ちゃんはこの部屋の中に入った事ある?」

ふと話題が振られて私は素直に「ないよ。」と答えた。

それを聞いたマリアさんは話を始めた。

「ここは昔…私がまだ大家をする前の話だから詳しくは解らないんだけどね。ここで人が殺された事があったらしいんだ。」

「えっ!?…って事はここって」

「そう、曰く付きの物件になっちゃったんだ。出たって話は無いんだけどね。」

言いながらキーをポケットの中に仕舞うとノブを適当に動かし施錠確認をした。

「ねぇマリアさん。」

「ん、何かな?」

「その亡くなった人の名前って何?」

私はふとそんな事を聞いた。
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