時空の森と悪戯な風
「アタシね、智治が死んだ事を認めたくなかった。うんと年取ってたなら“死”を身近に感じるかもしれないけど、17才で…火災事故で突然いなくなってしまったのよ…有り得ないって思った」
「弥生…」
「アタシ…彼にサヨナラも言ってないの…お互い嫌いになって別れた訳じゃない、智治はアタシを置いて死んじゃったのよ…!名前を呼んでも、どこを探しても、彼はもう…ッ!」
そう言うとアタシは泣き崩れた。
約10年間、我慢してきた想いが、智治のお墓の前で一気に吹き出てしまった。
圭介は言葉をかける事もなく、ただアタシの側で立ってるだけだった。
墓園の閉園時間を伝えるアナウンスが聞こえた。
「弥生…帰ろう…」
アタシは圭介に支えられながら立ち上がった。
二人は一礼してから、お墓を後にした。
桜の木の前を通り過ぎると、暖かく優しい風がフワッと吹き、アタシの涙を拭うように頬をかすめていった。
『弥生…』
名前を呼ばれ振り返ると、桜の木の下で笑顔の智治が立っていた。