時空の森と悪戯な風

「智治、アタシは離れたくなかった。あの頃、冗談で智治が言った言葉を…“一緒に暮らそう”って言葉を本当に実現してたら、こんな結末にならなかったのかな…?」



『わからない。そのまま付き合っていたのかも…お互い生きていたのかさえも…』



そうだよね。
全ては想像だもん。



『弥生、お前には絶対に幸せになって欲しい』



狡いよ。
アタシはアナタと幸せになりたかった…



『俺は、ずっと見守ってる。弥生が幸せになる事が、俺の幸せだから』





木の葉や枝が騒ぎ出し、もう時間がない事を知らせていた。



『弥生、大好きだよ。会えて、話が出来て本当に嬉しかった』



「アタシもだよ…」



智治を包む光が、アタシを包み込んだ。



『弥生…愛してる…』



腕を大きく広げ、アタシを抱き締める智治の体は、アタシの体をすり抜け、そのまま風と共に、大木の先端まで昇り、弾けるように消えた。



空から桜の花びらが、ハラハラ降ってきた。

二人で見た公園の桜。

そして、智治が眠る墓園の桜。



桜は、アタシと智治の思い出の花。



それを拾い集め、ハンカチに包んだ。



いろんな気持ちと一緒に…






< 67 / 92 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop