時空の森と悪戯な風
駐車場に止まると、回りには何台か車が止まっていた。
恋人同士が手を繋ぎながら、砂浜を散歩してるのが見える。
無意識に、目で彼等を追ってるアタシを見て、圭介が
「彼を思い出したのか?」
と聞いてきた。
「どうして?」
「いや、何となく」
「ふーん…」
車を降りて、砂浜に通じる階段に、並んで腰かけた。
潮風と波の音、それに砂浜遊びに来た家族連れの、楽しそうな声が聞こえる。
ふぅ…と、深呼吸をしてから質問した。
「ずっと聞けなかったんだけど…アタシを見つけた人は誰なの?」
「…俺だよ」
「怒らないの?」
少し言葉を選びながら圭介が話し出した。
「弥生…お願いがあるんだ。
前にも言ったと思うけど…
死んだ彼を忘れろとは言わない。
でも…でも…死ぬ事だけはやめてくれ…」
真っ直ぐアタシを見る圭介の目は、涙で潤んでいた。
「ごめんなさい…」
アタシの想像以上に、彼を傷付けてしまった事を、ただ謝るしか出来なかった。
「もう謝るな。終わった事なんだから。でも…」
そう言ってアタシの手を強く握り
「本当に…死ななくて良かった…」
海を見つめる圭介の横顔に、一筋の涙が流れた。