陽に温もる頃








休日の車内は老若男女入り乱れ

目の前の女子高生は化粧に余念がない。



――…へぇ…


いまはアイライナーで

皮膚に下睫毛を“描く”んだ。






彼女が必死に覗き込む手鏡のこちら側は、
自分と、友達のプリクラシールでいっぱい。


ぼんやりと眺めながら、「まるで、彼女の中身がそこに凝縮されてるみたい」と思ったら、なんだかおかしかった。












「まもなく~終点、豊橋、豊橋です。」




独特のアナウンスと共に

電車がホームに滑り込む。




その、直前

グレーと白が大半を占めていた視界に



突然、

目も覚めるような

大量の黄色が流れ込んできた。







「わぁ…!」





出迎えてくれたのは―… 一面の、菜の花。


思わず、驚嘆の声が上がる。





「まぁ、まぁ、きれいねぇ」

どこからか、おばちゃん達の華やぐ声も聞こえてくる。



ふと向かいの座席に視線を落としたら

女子高生も、手を止めて
鏡に映った花を見ていた。





ちょうど目の高さに植えられた菜の花は

車内の空気までも

光色で満たしてくれたよう。









「――――… あ」



するり

耳に やわらかな、春の音が忍び込んできた。





タイミングを見計らったかのように
ヘッドフォンが、ユーミンを届ける。



ランダム再生にしてあるのに

なんて気の利くオーディオなんだろ。







『やさしさに包まれたなら』







爪弾かれるギターの軽やかなリズムが

風に揺れる黄色の花にリンクして



なんだか無性に、踊り出したくなった。






* Spring has come! *



















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