かたっぽうの恋
教室に入ると敦子と美保たちが手を振ってくれた。


「おぉ~い、まぁ~おぉ!」


「おはよ~、わぁ!
敦子も美保も制服似合ってるねえ」


翠川第一高等学校の制服は、
女子が黒のブレザーに赤のネクタイ。
男子は黒の学ランなんです。


「ちょっと堅苦しけどなぁ」

「眞央も似合ってるよ~」


「へへへ、えっと」


私の席はどこかな?


当たりを見渡しながら、
「席って決まってるの?」と
ふたりに聞くと、敦子と美保がクスクスと笑う。


え、なになに?


私が不思議に思い、首を傾げると、
敦子が言った。



「あいつの隣だよ、ほら、
真ん中の列の左にいるやつ見てみなぁ」


「え?、まんなかぁ?」


言われたとおりに、
教室に均等に並べられている、机。


真ん中の列の左側、
一人だけ男子が座っていた。







「っ……わ、わぁ」




その背中を見間違えたりはしない。





大きくて肩幅のしっかりした、
真っすぐで黒板が見にくくて困った、
あの背中。








「に、二宮くん」




心でそう思うと、
同時に声に出していた。






すると大きな背中の彼は振り返って、
中学時代と変わらない優しい笑顔を、
私に見せてくれた。




窓から春風が吹き込んできた。


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