アゲハ蝶
ギュッと彼にくっついていると真っ赤に染まった彼の服が視界に映る。
さっきよりも近づいた分、真っ赤に染まるものが何かわかった。
「……血。」
私の声が聞こえなかったみたいで彼は変わらず頭を撫でていた。
確かに血がべっとりとついているのに血生臭い匂いがしない。
もっとギュッとくっついても匂いはしなかった。
ただ、血生臭い匂いの変わりに甘酸っぱい檸檬(れもん)の香りが鼻を掠めるだけ。
心を落ち着かせるような檸檬の香り。
香水が嫌いな私だけど、この香りは嫌じゃなかった。
私の頭を撫でる優しい手と安らぎを与える檸檬の香り。
ゆっくりと瞳は落ちていった。
瞳を閉じれば聞こえてくるのは彼の鼓動。
どくどくっと一定のリズムを刻む音にいつの間にか意識を手放した。