先生~あなたに届くまで~

キンコーンカンコーン

チャイムが鳴って2人で顔を見合わせる。

「やば!浅川急ぐぞ!」

私も手ぐしで髪を整えて
「先生のせいですよ!」
と笑いながら資料を手にとった。

「はいはい!よし!行くぞ!」
2人で慌てて準備室を出た。

教室に入ると皆まだ話していて
「もう来たかー」と
残念そうな声を出した。

それに先生は
「やっと来てくれただろ?」
といつもように切り返して
「席つけー」と促した。

そして「浅川サンキュー」と
私の手から資料を受け取った。

私は「はい」と優等生スマイルで答えて
席に向かった。

皆は普通にその光景を見ていたけど
2人だけは驚いたような顔をしていた。

私は2人を見て“後で話す”と口パクで伝えると
2人も静かに頷いた。

1ヶ月前のことからきちんと話そう。

そう決めて席に着いた。

先生の日本史が始まる。
1ヶ月ぶりにきちんと顔をあげて聞く気がした。

カツカツとなるチョークの音も
先生の声も時々歩いて回る足音も
全部が心地よかった。

“生徒でよかった”

初めてそう思った。

“先生でよかった。”

初めてそう思えた。

先生が私を見る。
だから私はふっと笑った。

先生もふっと笑う。

先生もきっと1ヶ月ぶりに自分の授業を
きちんと聞く私を見て笑いが出たのだろう。

“困らせてごめんなさい”
私は心の中でつぶやいてノートに目を移した。

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