スマイリー
「あいつに限って、あたしを気にかけるって?ないない。いわゆる天敵なのよ。顔をあわせちゃあ言い合いばっかし。顔をひっぱたいてやったことも何回かあったなぁ」



「いや…でも、大地さんだけじゃないですか?藍さんに意見したり、怒ったり、ケンカしたりする人って」



「まぁ、そうだったけど」



「貴重じゃないですか」



藍は、黙ったまま顔を上げた。目線は前方だが、意識は過去に翔ばしているのか。



「藍さんは、面倒見もよくて、男女あわせても部のまとめ役で、間違いなくみんなの尊敬の対象でしたよ。でも、だからこそ辛いこともあったんじゃないですか?」



比較的小規模な陸上部は、何度か存続の危機、崩壊の危機に陥ったこともある。男子部部長の敬太と女子部部長の藍の尽力で、その度になんとか乗り越えてきたのだが。その肩にかかった重圧は半端なものじゃなかったはずだ。



「大地さんは、藍さんを支えてたと思う。藍さんとケンカしながら、部をいつもいい方に軌道修正してたような気がする」



喋りながら、進はなぜこんなことを藍に説いているのか、分からなくなってきた。



何をしてるんだ、俺は。



藍を誘った理由はそもそも何だ。




そんな思いとは裏腹に、藍はもう少し顔を上げて、虚空の夜に目を向けた。その口元が、やっと笑みを浮かべて、



「そうねぇ」



と動いた。
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