スマイリー
大通りの信号を越えれば、駅は目と鼻の先だ。



有華は進を見たら何も言わず帰ってしまうかもしれない。さっきかなりひどいことも言ったし。



“有華ちゃんに、駅前に行くよう連絡しとくよ。俺が来ると思ってるから、うまくやるように”



進が、有華とケンカしたことを白状すると、敬太はまた、右手の人差し指を立てて微笑んだ。



敬太が、有華説得の最後のチャンスを用意してくれた。



進はふたりと石井コーチに挨拶をして、グラウンドを後にした。全速力で。



願書の提出期限まであと数日。有華はどこを受験するのか。東大、西京、帝二。


“あたしは西京受けるけど、進が帝二受けるのは応援する。あ…英語も教えるし、毎日!なんでも聞いて”


有華が進の受験を応援してくれていたのは確かで、それが進は嬉しかったし、支えになった。少しの期間だったが、有華から英語も習って、わずかながら単語や文法の知識も増やした。



自分は何をやっている?有華に言ってしまった暴言、と言うほどでもなかったが、とにかく有華を怒らせ、無駄に追い詰めてしまった。



恩を仇で返すというか、なかなか人間的には愚鈍と言われる行いを、あろうことか有華にしてしまったのは、進としても後悔の嵐だ。



この落とし前は、敬太に与えられたチャンスでつけなければならないだろう。そうでなければ男がすたる。



赤信号を思いっきり無視して、進は風のように交差点を突っ切った。ここで車にひかれでもしたら、少しはドラマチックな展開にもなっただろうか。



だが現実その日の車通りは少なく、クラクションのひとつも鳴らされることなく進はますますスピードにのる。



駅の入り口に飛び込んだ進は、まばらな人通りをするすると抜ける。



改札が視界に入ったかと思うと、今まさに改札口の向こう側から制服の少女がこちらに向かってくる。その人影が有華であると進は即座に認識した。
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