真輔の風
昨夜、また推理小説に熱中して明け方まで起きていた。
今日も学校へ行ってから保健室で眠ろう、と考えながら
教室へ入った真輔。
女生徒の一人が挨拶の声をかけた。
真輔はいつものように相手の顔を見ないで黙って肯いた。
が、真輔君だなんて…
それは、川崎茜だった。
茜の母・昌代は、茜が小学二年のとき離婚して、
真輔の家の近くで農業をしていた川崎さんの家へ、
東京から戻って来た。
決して幼なじみと呼べるものではない。
川崎さん一家は2年前にその家や田畑を売って、
皆で西神中央駅前商店街の端に店舗兼住宅を建てて移って行った。
昌代が、ブティックを始めたのだ。
しかし、縁はあった。
小学生の時、咳き込んでいた真輔を、
車で茜を迎えに来ていた昌代が見つけて家まで送ってくれた。
2度… 母を知らない真輔はその時以来、
心の中で、昌代を母親の代表のように感じていたものだ。
おばあちゃんは優しくて大好きだが…
若々しくて、
ピンと張り詰めた弦のような声を出す昌代を、
真輔は気に入っていた。