目覚めた時に
「眠れないなら、話そうか。」

眠れない私に桐生さんは言った。

朝早くから夜遅くまで起きていて、

桐生さんは一体、何時寝てるんだろう。

消灯時間の近づいている病院はあまりにも寂しい。

時々、救急車の音が小さく聞こえるだけで、
私と桐生さんの呼吸の音と
そして機械音だけが協和音になっているみたいだった・・・。

「何を話そうか・・・。」

桐生さんは私の近くに寄って、
足を組み、足に肘をつき考えている。

私はそれが少しお茶目で可愛くって
クスリと笑ってしまった。

「何がおかしいの?」

不思議そうに桐生さんが問いかけてきた。

「別に何もないですよ~」

いつも、
神経を尖らせているイメージの桐生さんとは違う表情に私は少し幸せになった。


「一人で面白い事考えて笑うなんてずるいよ。僕にも教えてよ。」

無邪気な表情を見せる事もあるんだなと思った。

「桐生さんでも無邪気な表情するんだなと思って。」

桐生さんは手の平で顔を隠した。

怒ったのかな?

私は少し不安になった。

「き、桐生さん・・・ごめっ」

でも私は分った。

桐生さんの耳が真っ赤になっていた。

桐生さん恥ずかしいんだ。

クスリとまた笑ってしまった。

「桐生さんもう笑わないんで顔見せてくださいよぉ!」

それでも桐生さんは顔を上げない。

私は近くに寄って手を摑もうとした。

体を起こし近づいた。

「桐生さっ・・ん・!?」

一瞬状況が理解できなかった。

私の手を桐生さんが摑んでいた。

そして・・・

私の唇と桐生さんの唇が重なっていた。



凄い長い時間のように思えた。



何も聞こえなくなった。


世界に二人だけのように・・・--ー。

ドク、

ドク、

ドク、

ドク


心臓が張り裂けるくらい脈打つ。



私は静かに目を閉じて、

桐生さんの唇の微かなぬくもりを感じていた・・・。
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