目覚めた時に
過去のメモリー
目覚めて二日目。

昨日は正直寝ていない。

ずっと私が眠るまで、

桐生さんは私の冷たい手を握ってくれていた。

夜中の1時を過ぎた頃、
私は寝た振りをして寝返りをうった。


寝た私に桐生さんは


「お休み。」

と優しく囁き、
私の髪を撫でた。

しばらく桐生さんは私の横にいた。

部屋には器械の音だけが響く。


そっと部屋のドアが音を立てずに開いた。

「桐生くん。ちょっと話があるの。」

お母さんの声だ。

声を押し殺し、ひそひそ話している。

私は神経を張り巡らせた。

「チセを十分愛してくれた。仕事も家も捨ててくれて。でも、チセは記憶がないの。正直これから先も可能性はないかもしれない。」

緊張した空気が流れる。

「桐生君。もう、自分の為に生きなさい。結婚も君にはまだ可能性があるんだから。チセも分ってくれる。チセだって君の錘にはなりたくないはずだ。」

お父さんが言った。

「この話は何度も言っているはずです。お父さん!!」

小さな声だが、
その声からは怒りが窺い知れた。

「僕はチセの面倒を一生見るつもりです。仕事も家もチセに比べたら何の価値もありません。それに、チセさんは僕の錘なんかじゃありません!むしろ希望です。」




しばらく沈黙が続いた。






「桐生君・・・。君は分ってない。」





お父さんは冷たく言い放つ




「貴方はまだ可能性がある。それを私達は潰したくない・・・。」


お母さんの啜り泣きが聞こえる。


「せめて、せめて、仕事を再開してちょうだい。」

お母さんは震える声で頼む。

そして、また沈黙が続く。



それは凄く凄く長い時間のように思えた。

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