輝く季節へ

彼の提案、それは
直接会ってくれないか、
とのことだった。

その言葉は
『おやすみのキス』の時のように、
自然に耳に入ってはこなかった。

私は彼のその言葉を、
『破壊の合図』にしか
捉えることができなかった。

拒否的な感情で渦巻いていた。
決して今まで一度も
「彼と会ってみたい」
と思ったことがない訳じゃないし、
むしろ石井俊介という人物が
どんな人間なのか、
もっとよく知りたいという
好奇心で一杯だった。


でも、簡単に「あぁそうですか。」
と言って会いにいけるような距離でもない。
一番問題なのはいくら
「楽しい人だ」「好きだ」
と思っていても、
どんなに長い期間の
付き合いがあろうとも、
すぐ側で過ごしてきたわけではなく、
極端に言えばそれは仮想現実であり、
自分の理想が最先端の情報である。
その事実を理解している私は、
まさに不信感の塊だった。



 その時は
「じゃあ、いつかね。」
と言い曖昧な期間を設けることで
軽く受け流したが、
石井さんは電話をする度に
同じ提案を持ちかけてくるので、
段々重く圧し掛かってくるようだった。
私は毎回それを
機械的に受け流すようになっていた。



 距離のせいで・・・



 時間のせいで・・・



 全ての物が本物ってわけでもないし。
彼と接している自分だって、
本物ってわけでもない。
私たちは運命的に出会ったが、
運命によって対談することができないんだ。

そんな苛立ちが、日に日に
言葉に表れてしまうようになった。
自分でも気づいているのに、
冷たい態度を取るようになった。




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