Secret*Hearts
 

◆華梨





頭上に広がる青い空。屋上のベンチに腰掛けて、ほとんど雲のない空に両手を突き上げれば、自然とあくびが漏れた。

そんなあたしの横、一緒にベンチに腰掛けていた憐が、呆れたようにくすりと笑う。


「…またそんな大口開けてあくびなんかして。今の顔、華梨のお母さんが見たら、また延々と説教くらうよ。」

「いいのよ。そんな仮定の話なんて。現に今ここにママは居ないし、第一居るならこんなことしないわ。…というか、憐といる時くらい家のことは忘れさせてよ。」


望んで浅井家に生まれてきた訳ではないにしろ、今現在、あたしが浅井家の令嬢であることは間違いのない事実だ。

おかげで欲しい物はだいたい手に入ったし、お金の苦労はしたことがない。使用人みんなにお嬢様って呼ばれて悪い気はしなかったし、昔は嬉しかった。

けれど、今は……

何一つ不自由の無い生活なんて、嘘。
周りの人はそう思ってるかもしれないけど、それはただの幻想にしかすぎない。

現実のあたしは、ただ“令嬢”であることに縛られて、束縛されて。お嬢様を演じて、パパとママの機嫌をとることに必死になって過ごしているだけ。

表向き自由のはずなのに、堅苦しい生活。
少しでも家に恥じることをすれば長い長い説教が待っている。説教だけならまだしも、中学の頃はちょっと帰りが遅くなっただけで3日間外出禁止にされたもんだから、もうどうしようもない。
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