赤い狼 壱





エスパーだ、と呟くと隼人に、んな訳ねぇ。って言われた。



変なものを見るかのように目を細めないでくれ。頼むから。




「ま、まぁ…懐かしい思い出だったのは間違いないよ。…あんまりいい思い出じゃあないんだけどね。」




苦笑いを溢す。



笑おうと思ったんだけど笑えなかった。あれ。私、演技下手になった?



とうとう大根役者に成り下がったか、と自分の演技力について評価しながら、まだ歩く隼人に着いていく。




ずいぶん遠いところに車があるんだね。



塚、車ってもしかしての高級車なんだろうか。よく実と香が



「暴走族っていったらベンツでしょ!」



「いや、メルセデス!」



って言い争いしてるところを見るけれど。



いつもどっちでもいいじゃん、って思いながら眺めてたけど。




結局のところ、世の中の暴走族はどんな車に乗ってるんだろう。


………もしかしたら普通のだったりして。


いや、っていうか普通でいい。乗るのに戸惑うから。




暴走族の車について考えていたら隼人が、もうすぐだ、と低い声で呟いた。



それに間延びした返事を送って《SINE》の車はどんなのだろうか、と心を踊らせながら隼人の手を握った。




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