それでも私は生きている
「避難所に行くの?」
そう声を掛けてくれたのは坂田雛子さんと言う方だった。
歳は私とそう変わらないだろう。
「いえ…東京に…」
「東京?観光か何かで巻き込まれたの?」
私を気遣ってくれているのか眉間にしわが寄っている坂田さんに私は小さく首を振った。
観光かと聞かれれば観光ではない。親友や、親類に会いに来たら被災したから。
「東京…今は無理かもしれないよ。道路も寸断されてるし…」
あぁ、やっぱり…私はそう思ってしまった。
これだけの地震と津波で道路が使えるなんて思っていなかった。
「仙台まで出られれば…」
「知り合いでもいるの?」
「いえ…山形に友人がいるので、どうにか…」
仙台まで出られればどうにか連絡が付くかもしれないとも考えた。
山形にいる友人に連絡が取れれば頼る事もできるとも考えた。
「山形か……よし、一緒に行こうか?」
「………え?」
「こんな状況だし…私もあなたも一人よりは良いから。」
一瞬、何を言っているんだ、そんな事を思ってしまった。
被災したならば避難所に行くのがセオリーなのに、坂田さんはそうしないつもりなのか…
「仙台にね、親がいるの。連絡付かないから心配で…」
そう言った坂田さんは泣きそうな表情で無理矢理笑っていた。
そうだ…辛くないはずないんだ。
一瞬でも、坂田さんを楽観的な人だと思ってしまった自分が情けなかった。