あたしの愛、幾らで買いますか?
あたしはバカかもしれない。

逃げようと思えばいつだって逃げられる。

彼の前から消えようと思ったら消えられる。

だけど、

行動に移さないのは


‘彼があたしの全て’


なのだから。

移さないんじゃない

【移せない】のだ。


フローリングに倒れる、あたしに

見向きもしないで

彼は、カチャカチャと静かに

朝食を食べる。

あたしが作った朝食を食べる。

その光景が見れただけでも、

さっきまで彼がした仕打ちを

許してしまう材料になっていた。


「なぁ、あゆー…
 飯、美味いよ」


この口調は…









いつもの優しい朔羅だ。

あたしが愛した朔羅…―。

朔羅の声は

少しだけ震えていた。

あたしは、それに気付いていたけれど

理由なんてわからなかった。


あたしはヨロヨロと体を起こして、

ダイニングテーブルで朝食をとる彼を

後ろからギュっと抱き締めていた。









「朔羅…
 なんでも良いから、
 歩美の傍に居て…」


と、あたしは弱々しく

呟いていた。

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