虹の詩 【短篇】
愛しい人
病院の廊下を桃花が歩いている。

その足取りは力なく、寂しげだ。

ナースステーションの前を通ったとき、看護師の話が聞こえた。

『308の吉沢 巧君、今日亡くなったんですってね』

『病院を抜け出して、海に行ったらしいんだけど、タクシーの中から様子が変だったんだって。それで、海に着いたらすぐ』

『あらぁ』

『救急車の中ではまだ呼吸はあったんだけど、助からなかったの』

『いい子だったのに。かわいそうにね』
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