六天楼の宝珠〜亘娥編〜
 最初の内は「まだ身体が戻っていないから」と断り続け、言い訳も尽きると「気分が優れない」と背を向けた。

 そんな事が何回も続いて、遂に慎文は妻に詰め寄った。

「身ごもっている時はあんなに素直だったのに。一体何をそんなに怒っているんだ」

 怒ってなどいない。ただ哀しいだけだ、などとはとても言えなかった。

「……もう、私の役目はこの子を育てる事だけだから」

 出来る事ならもう、その優しい手で触れないで欲しい。身体は心に繋がっている。今夫に抱かれると、二つが引き離されてしまいそうな気がした。

 俯いて目を合わせようとしない季鴬を、慎文はしばらくじっと見つめていたが、ふと息を吐き、

「なるほど。確かに貴方には身を飾る瓊瑶は必要ないな……」

 と謎めいた言葉を残して、静かに房を出て行った。
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