虹が見えたら
なるみは週2のマンション清掃はこなせている。
県大会も無事1回戦は通過して、2日後に2回戦が予定されていた朝のことだった。
掃除が終わって、マスクと帽子をはずして水やりをしていると、いきなり後ろから声をかけられた。
「冬美、生きていてくれたんだね。」
「えっ?」
なるみが振り返ろうとすると、いきなりメガネをかけた男性に腕を掴まれてしまい、なるみは思わず、「きゃあ!」と叫んだ。
「兄さん!ちがう、やめろ!」
高倉祐司が男の腕をふりほどいて、突き放した。
「人違いだよ。この人は兄さんの恋人の冬美さんじゃない!」
「え・・・ふゆみって・・・兄さんって・・・」
なるみは目の前の2人の顔を見比べて、口を開いた。
「高倉くんのお兄さんなの?」
「うん、いきなりごめんね。
山田が兄さんの亡くなった彼女に似てたみたいでさ・・・」
「山田・・・。」
「あの、もしかしてあなたはお姉ちゃんの・・・私は以前、あなたの写真を見せてもらったことがあるんです。
冬美は私の姉です。
私は妹の山田なるみです。」
「げっ、山田のお姉さんだったのか。そうか・・・」
「山田なるみさんか。
間違えてしまってごめんね。
あ、じゃ・・・君は今どこに住んでいるの?
僕はさっきもお見苦しいところを見せてしまったけど、まだ現実を受け止めきれてなくてさ、大学の研究に夢中になって山へ行っててね、事故のあった日から2週間もたってから冬美の死を知ったんだ。
なんとか受けとめなきゃって家を訪ねたら、家がなくなっていて。」
「ええ、収入のある親戚がいないものですから、私ひとりで維持することもできずに売ってしまったんです。」