虹が見えたら
「伊織お兄ちゃんが唯一の身内なんだってわかってから、私の中で2つの家族は結びつかないの。
たとえ半分でも血がつながっているからわかる感覚ってわかるの。
でも、その分今度は、真樹さんは私にとって何なんだろうって考えてしまうの。
それでその答えを探すと悲しくなるの。」
「なるみちゃん・・・」
「この寮生くらいしか真樹さんに会うことがなければ、まだ都合のいい下宿屋さんにいるみたいな気持ちくらいになったかもしれないの。
でもいろんなことがあって・・・昨日だってきよしくんのママといっしょのとこ見ちゃって・・・私、嫌だった。
あんなの見たくなかった。
そんなふうに思っちゃう自分がバカすぎて涙が出ちゃった。
大人のキスを真に受けすぎよね。
なんか、ここにいたら私おかしくなっちゃう。だから私!」
「僕から逃げようと思ったの?」
真樹はつらそうな表情を浮かべ、着ているシャツを脱いだ。
なるみは思わず、後ろを向こうとしたが、真樹は自分を見るように指示した。
「これが僕の正体。目を背けたくなるでしょ。」
真樹の肩の下から二の腕にかけて、そして背中半分がひどい切り傷や火傷の跡になっていた。
この女性に見まがうほどのきれいな顔の下に、悲しい過去がいっぱいの傷があったなんて・・・なるみは涙が止まらなくなった。
振り返って、驚いた真樹はすぐにまたシャツを羽織るとなるみを抱きしめて謝罪した。
「ごめん。また泣かせた。
これじゃ、逃げられても仕方ないね。
なるみちゃんは昨日の保育士さんと付き合うことにしたのかな。
かなり影響力あったみたいだし、なるみちゃんが楽しくなれるならそれがいちばんいいことだと思うし・・・」
「キスも嘘で助けにきてくれたのも責任感だけだったの?
そう思っていいの。
私ひとりで、憧れたり、好きになったり、どきどきしてバカだったんだよね。
私は素直に進学するって返事すれば真樹さんは満足してくれるんだよね。」