キマイラ



彼女が顔を上げる。
睨んでいた。
早瀬をすごく恐い顔をして。

早瀬は何をされたのかわからないようで、自分の頬を押さえ呆けている。



『触るな……』



低い声。
はっきりした拒絶。

その場のみんなが驚いて何も言えない。
夏なのに異様なまでに寒気がした。

冷たい目。

愛澤さんが恐かった。


愛澤さんの言葉に誰も動くことも言葉を発することがすぐできなかった。

一番に速く反応したのは、



「てめぇ!!心配してやってんのに何だよそれ!!」



早瀬だった。

俺が早瀬だったら、叩かれて怒るどころじゃない。
ショックで落ち込むし、何もできない。



『構わないで。少し目眩がしただけだから』



無表情だが目が怒ってる。
いや、顔色は悪そうなままだけど。

口調はいつもの感じに早瀬に言葉を返した。



「なんで俺が叩かれなきゃいけねーんだよ!!」



早瀬はキレてる。



『バカだから』

「ハァ!?」

『なんでここにいるの。早瀬くん』

「……」





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