月物語 ~黒き者たちの宴~
「いつもありがとう。
私はここの食事が気に入っている。」
素直な気持ちがするりと滑り出た。
久々の感覚に、心地よさを感じる。
「一生の誉れ!」
とたんに、庖厨長の頬笑みが崩れ去り、地面に額を押しつけた。
礼は慌ててそれを制止する。
「顔をあげて。
私は食事という一時の安らぎに感謝しているの。
ううん、本当に文句なしに美味しいし!
だから―…」
東苑が目を細める。
「そのようなお言葉、勿体のうございます。」
庖厨長を礼は好きになった。
跪いたからではない。
自分を本当の自分に近づけてくれる。