月物語 ~黒き者たちの宴~
「でも、時には温かいものが食べたいわ。」
礼の御膳に上がってくる時にはすべてが冷めている。
庖厨長の血がさっと引いた。
庖厨長は何かを言いかけたが、東苑が制した。
「主上、それはあなた様のためなのです。」
「えっ?」
知らなかった。
毒味をしてから、礼のもとへ運ばれる。
大奥のドラマでそんな話を見た気がする。
なぜ誰も教えてくれなかったのだろう。
自分のために誰かの命がかかっているのだと。
礼は何も言えない代わりに、そっと庖厨長の肩に手を置いた。