雨のち晴






「十夜…」





会いたい。


そう言おうと思ってやめた。


だって、目の前に、


諒司先輩がいたから。





『ん?』





「何でもない。ごめん、切るね」





驚いた。


いると思ってなくて、慌てた。


何に慌てたんだろう。


電話をしていたことを


知られたからか。


泣いていることを知られたからか。


もう無理だと、気付いてしまったからか。





「朱里」





「諒司、先輩」





諒司先輩はあたしを見つけると、


急いで駆けて来て。


目の前で地面に伏せた。







「ごめん!本当あそこまでするつもりなくて!でも、どうしても朱里に謝らせたくて!」





世間で言う土下座をして、


あたしに必死に謝る諒司先輩。






「ちょっと、やめて下さい!こんな所で…」





「本当、ごめん」





あたしは必死に引っ張って、立たせる。


されるがままに立ち上がった先輩は、


あたしに悲しそうな顔を向ける。


あたしはそんな彼に、


冷たくすることなんて出来なくて。





「もういいから。だから気にしないで?」





「絶対こんなことしないって約束するから」





うん、と言うと。


ふぅ、と一息つく諒司先輩。






「朱里に会いたかった」






諒司先輩は、あたしを思い切り


抱き締めた。


あたしは困惑して、


押し退けようとした。


でも敵わなくて、


先輩の腕の中にすっぽり収まる。


そして。


いきなりキスをしてこようとして。





「やっ…」





あたしは思わず、拒否をしてしまった。


理由はない。


だけど、何か嫌だった。






「ごめん」






こんな顔をさせたいわけじゃない。


こんな思いを感じさせたいわけじゃない。


だけど、でも。


何から言ったらいいのか


分かんなくて。






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