雨のち晴
「後ね、これも聞いた話なんだけど」
麗華が静かに。
あたしの心に、
伝えるように言葉を紡いだ。
「藤田、里菜ちゃんに脅されて付き合ったんだって」
「え、脅された?」
「噂だけどね。付き合わないと、死ぬとか言って」
「誰がそんなこと…」
淡々と言われたって、
にわかに信じられない。
あんなに仲良しだった2人が、
偽物だったってこと?
噂が本当なら、
十夜は里菜ちゃんのこと
好きじゃなかったってこと?
じゃああたしは、
何のために我慢してきたの?
「誰が言ったかは分かんない。だけど今日の朝来たら、もうその話で持ち切りだった」
「そう、だったんだ」
必死に理解しようとして。
でも追いつかない。
だめだよ、そんなの。
そんな噂でも、
聞いちゃったら
揺れちゃうじゃん。
やっぱり、十夜なんだって。
あたしが好きなのは、
十夜だって。
なっちゃうじゃん。
「恵衣、麗華、ありがとう」
「朱里にはっ…、藤田がいいよぉ…」
「恵衣、」
恵衣はあたしの手を握って。
頑張ろう、と呟いた。
ありがとう、と返すしかない。
だけど本心で。
あたしはもう、心に決めた。
もう、迷わない。
「そろそろ帰ろっか、朱里」
「そうだね、恵衣ありがとね」
玄関で見送ってくれた恵衣は、
まだ涙を流していた。
こんなにもあたしのことを
考えてくれてることが、
すごくすごく嬉しく感じた。
「ね、朱里」
「ん?」
「あたしも、恵衣と同じこと思ってる」
夕焼けが照る小道を、
2人並んで歩く。
隣で麗華が、
寂しそうに呟く。
「朱里には、藤田がいいと思う」
「…うん」
「藤田にも、朱里がいいと思う」
「…うん」
ねえ、十夜。
今何してるの?
里菜ちゃんのこと、
聞いちゃったよ。
あたし、やっぱり
諦められないよ。
辛かったの?
苦しかったの?
あたし、何も気付いて
あげられなくて、ごめんね。