雨のち晴





「いいよ、全然。汚いけど、いい?」





『いや、絶対綺麗だろ。知ってんだぞ』





「え?」





『1年の時もノート借りたろ。さすがに覚えてねえか』





少しだけ笑う十夜。


ノートなんて貸した、何回も。


だけど、そんなこと、


覚えててくれたんだ。


何だろ、なんか。


すっごく、嬉しい。







「覚えてるよ。何回も貸したもん」





そこに、電話の向こう側で


あくびをした十夜が小さく


眠いと呟いたのが聞こえた。






「眠いの?」





『いや、今まで爆睡してたから。さすがにテスト前なのに、勉強しねえわけにはな』





あくびのせいで、目に涙が


浮かんでるのかな、とか。


眠いの我慢して、


机に向かって座ってるのかな、とか。


そんなことを考えて。


可愛いなと思ってしまう。






「また夏休みなくなっちゃうよ?」





そう言って去年のことを思い出す。


一緒にいたな、とか。


楽しかったな、とか。


いつの間にか、


好きになってたな、とか。







「今年は補習じゃないといいねっ」






くすくす笑ってそう言ってみせる。


だけど、十夜は1つも笑わず。







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